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最高裁判所第三小法廷 昭和29年(あ)1223号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人中島武雄の上告趣意第一点について。

論旨は単なる訴訟法違反の主張であって上告適法の理由にあたらない。(本件起訴状は第一の詐欺の公訴事実を記載するにあたり、被告人が君島製作所に対し本件註文品の代金を約定通り支払う見込並に能力のなかった事実を示しているが、起訴状はこの事実を単に抽象的に記述することを以て足れりとせず、所論のように、被告人の「会社は漸次営業不振に陥って昭和二十四年五、六月には約三百万円の負債を生じ多数の債権者より厳重なる督促を受けその支払に追われ新に商品の仕入れをなすもこれが転売により受領したる代金を以て直ちに支払に充当するに非ざれば到底他に捻出の方法なく、従って殆ど取引を終止していた」という状態にあったことを記載している。そうしてこの記載は、被告人が「既に転売先たる相模鉄道株式会社より受領したる前渡金を費消し当時他に入金予定皆無」であったという記載と相俟って、被告人に支払の見込並に能力のなかった事実を一層明らかに具体的に裏つけるものである。してみれば所論の記載は本件公訴犯罪事実の内容をなすかまたは少くともそれと密接不可分の関係にあるものと認められる。かような記載は刑訴二五六条六項に違反せず、従って公訴手続を無効とする理由とならないこと明らかである。)

同第二点について。

論旨は本件起訴状が刑訴二五六条六項に違反することを前提として憲法違反を主張する。しかし本件起訴状が刑訴二五六条六項に違反するものでないことは前記のとおりであるから、所論違憲の主張はその前提を失い採用することができない。

同第三点について。

論旨は単なる事実誤認の主張であって上告適法の理由にあたらない。

また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 島 保 裁判官 小林俊三 裁判官 垂水克己)

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